NextPublishingでは、原稿作成はすべて「超原稿用紙」と名付けたMicrosoft Wordのテンプレートを使って行っています。なぜ「超原稿用紙」かと言うと、かつての紙の原稿用紙に比べて、図や表などの文字以外の要素も本番データとして一緒にデジタル入力できることと、見出しや箇条書きなどの文書要素(文書構造)の指定もできるようになっているからです。 一番のミソは「指定」にあります。「指定」と言っているのは、通常、編集者が行う見出しや脚注や箇条書きなどの文書要素をマークアップする作業のことです。昔なら、赤鉛筆で原稿用紙に書き添えていたアレですね。 ふつうワープロで文書を作るときは、大見出しは「20ポイントのゴシック体」のように直接に大きさや書体を表現していると思いますが、超原稿用紙では間接的に大見出しであることのみを「指定」しておき、具体的な大きさや書体の設定は後の工程に任せるのです。こうしておくことで、この原稿は最終的な読者の画面サイズの変化にも、またどんな判型での組版にも影響を受けないマスター原稿になることができます。これが論理指定と物理指定の分離です。 論理・物理と言うとむずかしく聞こえますが、編集者がやっていた業務と、制作者がやっていた業務のデジタル的な区分だと思えば腑に落ちるのではないでしょうか。このことは、EPUBのようなリフロー型のコンテンツを作る場合にとても重要な概念です。これまでDTPでやってきたような直接的(物理的)な指定をしてしまうと、最終の画面サイズが読者の利用環境によって変化するリフローには対応できないのです。 改めて言うと、リフローとは「レイアウトをコンピュータに任せること」です。6インチの電子書籍端末で見る場合と、4インチのスマホで見る場合は、それぞれのコンピュータが自分の画面の大きさに合わせて1行の文字数や見出しの文字サイズをリアルタイムに組版しているのです。これまで制作者が事前に行っていたレイアウト業務が、コンピュータによる事後の業務に変わったと思えば分かりやすいでしょう。 超原稿用紙はこの論理指定を効率的に行うために開発したテンプレートです。Wordを使ったのは、一番普及しているワープロだったことのほかに、Wordが元々この論理指定の機能(スタイル機能)を完備していたためです(日本の出版ではあまり使われていない機能ですが)。そのおかげで、出版に必要なスタイルの定義と変換プログラムの開発で、実用レベルの電子出版対応の原稿用紙を作ることができました。 NextPublishingではこの超原稿用紙で作られた原稿をマスターとしており、その後、XHTMLを経由してEPUBおよびKindleに変換しています。また、自動組版プログラムを使うことでPDFへの変換も可能ですし、XHTMLなのでWebに公開することもできます。さらに言えば、将来、音声合成技術を使ってオーディオブックを作ることも可能だと思っています。このあたりが、論理と物理を分離した恩恵です。 |
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